単語の成り立ち
文字が読めるようになると、次に必ずぶつかる壁があります。読めるのに、辞書が引けない。
このページは、その壁の正体と越え方を説明します。文法そのものではなく、アラビア語の単語がどう組み立てられているかの話です。ここを先に押さえておくと、以降の文法ページも、解析機の表示も、ずっと読みやすくなります。
辞書が引けない、という壁
たとえば文章の中に、こういう単語が出てきたとします。
10文字ほどの長い単語です。辞書でこの綴りを探しても、載っていません。載っていないのが正常です。
この1語は、実は5つの部品でできています。
| 部品 | 正体 |
|---|---|
| وَ | 「そして」(接続詞) |
| بِ | 「〜で」(前置詞) |
| مَكْتَبَة | 「図書館」 ← 辞書に載っているのはここだけ |
| ِ | 属格の語尾 |
| هِم | 「彼らの」(所有代名詞) |
つまり「そして彼らの図書館で」。辞書を引くには、まずこの分解ができなければなりません。
日本語話者にはむしろ馴染みのある発想です。「読まなかったので」を辞書で引くとき、私たちは無意識に「読む」まで戻します。アラビア語でも同じことをします。違うのは、戻し方に規則があることです。
以下、その規則を4つの用語で説明します。
語根
アラビア語の単語には、骨組みになる3個(まれに4個)の子音があります。これを語根と呼びます。
مَكْتَبَة(図書館)の語根は ك.ت.ب です。そして、この語根を持つ単語には、次のようなものがあります。
| 単語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| كِتاب | kitāb | 本 |
| كاتِب | kātib | 書く人、書記 |
| مَكْتَب | maktab | 事務所、机 |
| مَكْتَبَة | maktaba | 図書館、書店 |
| مَكْتُوب | maktūb | 書かれた、手紙 |
| كِتابَة | kitāba | 書くこと |
すべて ك → ت → ب の順に子音が並んでいます。そして意味は、どれも「書く」から派生しています。
これがアラビア語の学習効率を決定的に左右します。語根を1つ覚えると、その周辺の単語がまとめて手に入るからです。ك.ت.ب を知っていれば、初めて見る単語でも「書く」に関係すると当たりが付きます。
外来語(تِلِفِزْيُون テレビ)や地名(طُوكِيُو 東京)には語根がありません。アラビア語の仕組みの外から入ってきた単語だからです。
解析機で「語根が登録されていません」と出ても、エラーではありません。 辞書に登録されたレンマのうち約4割には語根がありません。
型
語根は子音だけの骨組みです。子音だけでは発音できません。そこに母音と、決まった位置の追加文字を嵌める鋳型があります。これを型と呼びます。
先ほどの表を、型の列を足して見直します。数字が語根の1番目・2番目・3番目の子音が入る位置です。
| 単語 | 型 | 意味 |
|---|---|---|
| كِتاب | 1ِ2ا3 | 本 |
| كاتِب | 1ا2ِ3 | 書く人 |
| مَكْتَب | مَ1ْ2َ3 | 事務所 |
| مَكْتَبَة | مَ1ْ2َ3َة | 図書館 |
| مَكْتُوب | مَ1ْ2ُو3 | 書かれた |
型はアラビア語と同じ右から左に読みます。いちばん右の 1 が語根の1番目、いちばん左の 3 が3番目です。
مَ1ْ2َ3َة に ك.ت.ب を嵌めると、右から ك・ت・ب が順に入って مَكْتَبَة になります。
語根が「何について」を決め、型が「どういう種類の語か」を決めます。 مَ1ْ2َ3 は場所を表す型なので、ك.ت.ب(書く)と組み合わせば「書く場所=事務所」になります。
この2つの掛け算で語彙ができている、というのがアラビア語の設計です。ここが英語やヨーロッパ言語と最も違うところで、慣れるまでは戸惑いますが、慣れると強力な武器になります。
レンマ
辞書に見出しとして載っている形をレンマと呼びます。
日本語の辞書で「読む」を引くのと同じです。「読まなかった」「読ませられて」は見出しにはならず、すべて「読む」に集約されます。アラビア語も同じで、格語尾や接語が付く前の代表の形がレンマです。
وَبِمَكْتَبَتِهِم のレンマは مَكْتَبَة。辞書を引くときに探すのはこれです。
تَرْجَمَة という語には、2つの別々のレンマがあります。
- تَرْجَمَة … 翻訳
- تَرْجَمَة … 伝記
綴りも発音も同じですが、辞書の項目としては別物です。解析機ではこの2つが別のグループとして表示されます。文脈から、どちらの意味かを判断してください。
接語
単語の前後にくっつく短い要素を接語と呼びます。冒頭の وَبِمَكْتَبَتِهِم で、مَكْتَبَة の周りに付いていたものです。
日本語なら独立した語になるものが、アラビア語では書くときに1語につながります。
| 前に付くもの | 例 |
|---|---|
| 接続詞 | وَ(そして)、فَ(それで) |
| 前置詞 | بِ(〜で)、لِ(〜へ) |
| 定冠詞 | اَلْ(その) |
| 後ろに付くもの | 例 |
|---|---|
| 所有代名詞 | هُم(彼らの)、ي(私の) |
| 目的格代名詞 | هُ(彼を) |
アラビア語の単語が長く見えるのは、たいていこれが原因です。 逆に言えば、前後の接語を剥がせば、残った芯は意外と短い。長い単語に出会ったら、まず両端を疑ってください。
素性
同じレンマでも、文の中での役割によって語尾が変わります。その形が示している文法情報を素性と呼びます。
解析機では、次のようなものが表示されます。
| 素性 | 何を表すか | 詳しく |
|---|---|---|
| 格 | 主格・対格・属格。文中での役割 | 8. 格語尾の読み方 |
| 性 | 男性・女性 | 2. 名詞の性と数 |
| 数 | 単数・双数・複数 | 2. 名詞の性と数 |
| 状態 | 定・不定・連結形 | 9. イダーファ |
| 人称・相・法・態 | 動詞の情報 | 13. 動詞文 |
素性は語尾を見れば分かることを言語化したものです。読解中に「この語尾は何格だったか」を確かめたいとき、解析機が役に立ちます。
解析機で確かめる
ここまでの4つの用語は、形態素解析機にそのまま並んでいます。単語を入力すると、接語の分解・レンマ・語根・型・素性がまとめて表示されます。
まずは、このページに出てきた وَبِمَكْتَبَتِهِم を入れてみてください。5つの部品に分かれる様子が見えます。
解析機は単語を1つずつ見ます。文全体を読んでいるわけではないので、複数の読み方が候補として出ます。
たとえば كتب は、母音記号を付けなければ「本(複数)」とも「彼は書いた」とも読めます。どちらが正しいかは文脈が決めます。候補の中から選ぶのは、最後は読み手の仕事です。