4. シャッダとタンウィーン
前のページの3つのハラカとスクーンに加えて、あと2種類の記号を覚えれば、ハラカ付きのアラビア語はすべて読めるようになります。
シャッダ:子音を重ねる記号
シャッダ(شَدَّة shadda、「強め」の意)は、その子音を2回繰り返して読むことを示す記号です。文字の上に、小さな w のような形を書きます。
| 記号 | 例 | 読み |
|---|---|---|
| ـّ | بّ | bb |
日本語の「っ」とほぼ同じ
ここも日本語話者が得意な領域です。
日本語には促音「っ」があり、「あさり」と「あっさり」、「かた」と「かった」を自然に区別できます。シャッダはこれとほぼ同じ感覚です。
| 書き方 | 読み | 日本語の感覚 |
|---|---|---|
| مَدَ | mada | マダ |
| مَدَّ | madda | マッダ |
英語話者はこの区別ができず madda を mada と発音してしまいがちですが、日本語話者は促音として自然に処理できます。
日本語の促音は k s t p の前でしか起きません(「あっか」「あっさり」「あった」)。しかしアラビア語のシャッダはすべての子音に付きます。mm・nn・ll・rr・bb のような、日本語では促音にならない音でも重ねる必要があります。
例: أُمّ(umm / 母)は「ウン」ではなく、m を長く保った um-m です。
シャッダは意味を変える
シャッダの有無は、まったく別の単語を作ります。特に動詞では、シャッダが付くと「〜させる」という意味に変わるという規則性があります(中級で学ぶ Form II)。
| シャッダなし | 読み | 意味 | シャッダあり | 読み | 意味 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| دَرَسَ | darasa | 彼は勉強した | ↔ | دَرَّسَ | darrasa | 彼は教えた |
| عَلِمَ | ʿalima | 彼は知った | ↔ | عَلَّمَ | ʿallama | 彼は教えた |
シャッダとハラカの組み合わせ
シャッダが付く文字にも母音は必要です。シャッダとハラカは重ねて書きます。
| 書き方 | 読み | 備考 |
|---|---|---|
| بَّ | bba | fatḥa はシャッダの上 |
| بُّ | bbu | ḍamma はシャッダの上 |
| بِّ | bbi | kasra は文字の下(シャッダの下に置く流儀もある) |
読む順番は「重ねた子音 → 母音」です。مُدَرِّس は mu-dar-ris(教師)となります。
タンウィーン:語末に付く -n の音
タンウィーン(تَنْوِين tanwīn、「ن を付けること」の意)は、単語の最後に n の音を加える記号です。ハラカを2つ重ねた形で書きます。
| 記号 | 読み | 例 |
|---|---|---|
| ـٌ | -un | كِتَابٌ (kitābun) |
| ـً | -an | كِتَابًا (kitāban) |
| ـٍ | -in | كِتَابٍ (kitābin) |
見た目の通り、fatḥa・ḍamma・kasra をそれぞれ2つ重ねた形です。「記号が2つ=n が付く」と覚えてください。
タンウィーンが意味すること
タンウィーンには2つの情報が同時に載っています。
- その名詞が「不定」であること — 英語の a / an に相当します。定冠詞 الـ が付くと、タンウィーンは必ず消えます
- その名詞が文の中で果たす役割(格) —
-unは「〜が」、-anは「〜を」、-inは「〜の・前置詞の後」
| 不定(タンウィーンあり) | 定(الـ が付く) | |
|---|---|---|
| 「〜が」 | كِتَابٌ kitābun(ある本が) | اَلْكِتَابُ al-kitābu(その本が) |
| 「〜を」 | كِتَابًا kitāban(ある本を) | اَلْكِتَابَ al-kitāba(その本を) |
| 「〜の」 | كِتَابٍ kitābin(ある本の) | اَلْكِتَابِ al-kitābi(その本の) |
この仕組みは 8. 格語尾の読み方 でまとめて扱います。ここでは「記号が2つ重なっていたら語末に n が付く」という読み方だけ押さえてください。
-an のときだけ alif が増える
タンウィーンの3つのうち、-an(fatḥa 2つ)のときだけ、語末に ا を書き足します。
كِتَابٌ ← كِتَابًا
この ا は発音しません。kitāban であって kitābanā ではありません。単なる書記上の台座です。
ただし例外があり、次の場合は alif を足しません。
| 語末 | 例 | 読み |
|---|---|---|
| ة(tāʾ marbūṭa)で終わる語 | مَدْرَسَةً | madrasatan |
| ء が alif の後に来る語 | مَاءً | māʾan |
実際の朗読では語末を読まない
重要な補足です。文の途中で区切るときや、文末では、タンウィーンや格語尾は発音されません(この現象を「休止形」と呼びます)。
- 単語だけを取り出して言うとき: كِتَابٌ →
kitāb(kitābunとは言わない) - 文の中で続けるとき:
hādhā kitābun jadīdunのように読む
つまり、格語尾は文を続けて読むときに現れるものです。初学者が音声を聞いて「語尾が聞こえない」と感じるのはこのためで、間違いではありません。詳しくは 8. 格語尾の読み方 で扱います。
これで記号はすべて出そろいました
ここまでに登場した記号の一覧です。アラビア語のハラカ付きテキストは、この6種類ですべて読めます。
| 記号 | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
| ـَ | fatḥa | a |
| ـِ | kasra | i |
| ـُ | ḍamma | u |
| ـْ | sukūn | 母音なし |
| ـّ | shadda | 子音を重ねる |
| ـً ـٍ ـٌ | tanwīn | 語末に -n(-an / -in / -un) |
読んでみる
مُدَرِّسٌ ・ أُمٌّ ・ سَيَّارَةٌ ・ طَالِبًا ・ مَدْرَسَةٍ ・ جَدِيدٌ
順に mudarrisun(教師)、ummun(母)、sayyāratun(車)、ṭāliban(学生を)、madrasatin(学校の)、jadīdun(新しい)です。
シャッダの位置と、語末の n に注意して読み直してみてください。
練習
問題 1: シャッダ( ـّ )は何を表しますか?
問題 2: مَدَّ はどう読みますか?
問題 3: كِتَابٌ の語末はどう読みますか?
問題 4: كِتَابًا の語末の ا は発音しますか?
問題 5: 定冠詞 الـ が付いた名詞にタンウィーンは付きますか?
問題 6: مُدَرِّس はどう読みますか?
問題 7: أُمٌّ(母)の正しい読み方はどれですか?
問題 8: مَدْرَسَة に -an のタンウィーンを付けるとどうなりますか?
問題 9: سَيَّارَةٌ のローマ字転写を書きなさい(語末のタンウィーンまで含めて)。
問題 10: دَرَّسَ のローマ字転写を書きなさい。
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