6. ハムザと紛らわしい文字
28文字の一覧には入らないものの、実際の文章に頻繁に出てくる文字と記号をまとめます。ここを押さえると、読めない字がほぼなくなります。
ハムザ ء
ハムザ(هَمْزَة hamza)は、喉を一瞬閉じる音 ʾ を表します(前ページ参照)。
やっかいなのは、ハムザが5通りの見た目を持つことです。
ء أ إ ؤ ئ
この5つはすべて同じ音 ʾ です。 見た目が違うのは、ハムザが「どの文字の上に乗っているか」の違いにすぎません。
読むだけなら、「この形はどれもハムザ」と認識できれば十分です。書き分けのルールは、作文をする段階で覚えれば間に合います。
台座の考え方
ハムザは、ا・و・ي のいずれかを台座にして書かれます(台座なしで単独に書かれることもあります)。
| 形 | 台座 | 呼び方 |
|---|---|---|
| أ | ا(上に乗る) | alif の上のハムザ |
| إ | ا(下に付く) | alif の下のハムザ |
| ؤ | و | wāw の上のハムザ |
| ئ | ي(点なし) | yāʾ の上のハムザ |
| ء | なし | 単独のハムザ |
台座になっている و や ي は発音しません。 مُؤْمِن は muʾmin であって muwʾmin ではありません。
書き分けのルール
台座は、**ハムザ自身の母音と、直前の母音のうち「強いほう」**で決まります。母音の強さは次の順です。
i(kasra)> u(ḍamma)> a(fatḥa)> 母音なし
| 一番強い母音 | 台座 | 例 |
|---|---|---|
| i | ئ | بِئْر (biʾr / 井戸) |
| u | ؤ | مُؤْمِن (muʾmin / 信者) |
| a | أ | رَأْس (raʾs / 頭) |
| 長母音・スクーンの後 | ء(単独) | شَيْء (shayʾ / もの) |
語頭は例外なく ا が台座になり、母音が i なら下に(إ)、a か u なら上に(أ)書きます。
| 語頭の例 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| أَب | ab | 父 |
| أُمّ | umm | 母 |
| إِلَى | ilā | 〜へ |
語頭の ا にハムザが付いていないとき
الْكِتَاب(本)や اِسْم(名前)のように、語頭の ا にハムザが付いていないことがあります。これは「つなぎのハムザ」と呼ばれる別のもので、前に語が続くと消えます。
詳しくは 7. 太陽文字・月文字とつなぎのハムザ で扱います。
ة ター・マルブータ
ة(تَاء مَرْبُوطَة tāʾ marbūṭa、「結ばれた ت」の意)は、ه の上に点を2つ打った形の文字です。語末にしか現れません。
役割:女性名詞の目印
アラビア語の名詞・形容詞は男性形と女性形を持ち、ة はその女性形の目印です。これは文法の全域に関わる非常に重要な記号です。
| 男性形 | 女性形 |
|---|---|
| طَالِب (ṭālib / 男子学生) | طَالِبَة (ṭāliba / 女子学生) |
| كَبِير (kabīr / 大きい) | كَبِيرَة (kabīra / 大きい) |
発音:2通りある
ة の発音は、後ろに何が続くかで変わります。
| 状況 | 発音 | 例 |
|---|---|---|
| そこで区切るとき | -a(ت を読まない) | مَدْرَسَة → madrasa |
| 語尾(格語尾)を続けて読むとき | -t- | مَدْرَسَةٌ → madrasatun |
つまり「普段は隠れているが、後ろに音が続くと ت の音が現れる」文字です。ت を丸めて(結んで)書いた形になっているのは、この性質を表しています。
ه との見分け
点が2つあるかどうかだけの違いですが、別の文字です。
| 文字 | 例 | 読み |
|---|---|---|
| ة | مَدْرَسَة | madrasa(女性名詞の語尾) |
| ه | وَجْه | wajh(子音の h) |
ハラカが省略された文章では点も省かれることがあり、文脈で判断する場面もあります。
ى アリフ・マクスーラ
ى(أَلِف مَقْصُورَة alif maqṣūra、「短くされた alif」の意)は、点のない ي の形をしていますが、読み方は長母音 ā です。語末にしか現れません。
| 単語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| عَلَى | ʿalā | 〜の上に |
| إِلَى | ilā | 〜へ |
| مُسْتَشْفَى | mustashfā | 病院 |
ي と混同しないよう注意してください。点があれば ī(または y)、なければ ā です。
| 文字 | 例 | 読み |
|---|---|---|
| ي | فِي | fī(〜の中に) |
| ى | عَلَى | ʿalā(〜の上に) |
小さな alif(短剣アリフ)
一部の非常によく使う単語では、長母音 ā が ا で書かれず、小さな縦棒で表されます。
| 単語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| هَٰذَا | hādhā | これ(男性) |
| هَٰذِهِ | hādhihi | これ(女性) |
| ذَٰلِكَ | dhālika | それ、あれ |
| لَٰكِنْ | lākin | しかし |
| اَللَّٰه | Allāh | 神 |
ハラカを省略した文章では、この小さな alif も一緒に省略されます。هذا と書いてあっても hadha ではなく hādhā と読む、という点に注意してください。
これらはどれも超高頻度語なので、単語ごと丸暗記してしまうのが早いです。
マッダ آ
آ は、alif の上に波線(マッダ、مَدَّة)を書いた形で、ʾā(ハムザ+長母音 ā) を表します。ハムザと alif が連続するときの短縮形です。
| 単語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| آن | ʾān | 今 |
| قُرْآن | qurʾān | クルアーン |
| آخَر | ʾākhar | 別の |
まとめ
| 記号 | 名称 | 読み | 出現位置 |
|---|---|---|---|
| ء أ إ ؤ ئ | hamza | ʾ(すべて同じ音) | どこでも |
| آ | madda | ʾā | 語頭が多い |
| ة | tāʾ marbūṭa | -a / -t- | 語末のみ |
| ى | alif maqṣūra | ā | 語末のみ |
| ٰ | 短剣アリフ | ā | 特定の高頻度語 |
練習
問題 1: أ إ ؤ ئ ء の5つはどういう関係ですか?
問題 2: مُؤْمِن はどう読みますか?
問題 3: مَدْرَسَةٌ を語尾まで続けて読むとどうなりますか?
問題 4: ة は主に何を示しますか?
問題 5: عَلَى はどう読みますか?
問題 6: ي と ى の見分け方として正しいものはどれですか?
問題 7: هذا(ハラカなし表記)の正しい読み方はどれですか?
問題 8: آ は何を表しますか?
問題 9: ハムザの台座を決める母音の強さの順として正しいものはどれですか?
問題 10: طَالِبَة のローマ字転写を書きなさい(そこで区切る場合の読み方で)。
次のページ: 7. 太陽文字・月文字とつなぎのハムザ